「キャビンアテンダント転職物語」は、航空会社の客室乗務員(CA)に転職した女性の笑いあり涙ありの物語です。驚きの採用決定からワクワクの初出社、地獄の訓練を経て、大空に飛び立ち、一人前のキャビンアテンダントに成長していくまでが描かれています。
前回の第6話「安全の訓練-毎日が叫びまくりの救難訓練」では、お客様の命を預かる客室乗務員ならではの緊急着陸や着水した際の訓練が描かれました。今回の第7話では安全訓練の実践トレーニングについてお話しいたします。それではどうぞ!
安全訓練の実践開始!
座学でのテストやシャウティングのテストに無事合格した私たち。
ついに、実践トレーニングに入ります。
まず、実践をするところ。こちらも完全に飛行機の中を再現したモックアップという場所で行われます。モックアップの外の床には一面マットレスが引いてあります。理由は、走ったり、飛行機から出る滑り台のようなもの(スライドと言います)を使って脱出する演習をする際、転んだりしてけがをすること防ぐためです。
そして、ここで授業を行う際は、必ず最初にラジオ体操をします。これもケガを防ぐための準備運動。もちろんこれは、日本人だけでなく海外基地乗務員も必ず受ける訓練なので、英語バージョンのラジオ体操で行います。ラジオ体操に英語があるなんて…最初は違和感がありましたが、今では当たり前となりました。そして、ついに実践。
機種ごとにドアの作りが違うので、機種ごとすべてのドアの模型が用意されています。窓はモニター画面になっていて、教官が操作することが可能です。窓の外を火災の画面、海の画面、陸の画面にするなど変えることが出来ます。ドアの前でやる訓練ですので、これをドアトレ(ドアトレーニング)と言います。これは機種ごとに全て行います。
教官が何の画面を出すか私たちは知ることが出来ません。私たちはその画面を見たときに一瞬でどのようなイニシアチブを取るかを瞬時に判断し、シャウティングします。シャウティングの内容は火災、着水、陸への緊急着陸全て違うので、混同せず、一字一句間違えずに叫ばなくてはならないのです。叫びながらドアを開け、スライドを出したり、ボートを出したりして飛行機からお客様脱出させるまでがドアトレの一連の流れです。このドアトレを一日に何度も何度も繰り返します。ボートを出した後にも、ボートの装備について、どこに何が入っているかなど全て暗記しているかチェックが入ります。
また、大きな声で叫ばなくてはなりませんが、訓練所はとても広いので自分が大声を出していると思っても全く響かないことも多く、教官には「声が小さい!」と怒鳴り続けられ、(声が小さいと減点)一日が終わるころには声が枯れている同期もちらほら。もうくたくたです。
ですが、みんな寝ずに勉強、暗記した甲斐あってこれもみんな一発でクリア。ついに総合訓練へと移ります。
本格的な総合訓練
安全訓練の集大成は総合訓練というものです。これは、モックアップで行いますが、総合訓練は航行中から脱出までの長い間、私たちの動きを見ます。まずは、教官のデモンストレーションを乗客役として客席に座って見るのですが、あまりに本格的な装備に私たちは絶句。
火災が発生したと思ったら後ろでトイレから煙が発生し、(もちろんイミテーションの煙で吸っても害のないものです)それを消したと思ったら、緊急着陸。壊れたドアもあるので、使えるドアから脱出するという設定でした。音響や照明、全てが連動しているので、墜落前の状況を本格的に再現します。そんな状況でも平然と教官は叫び続け、私たち乗客役を外に誘導します。スライドを使って滑り出るときもあれば、ボートに乗り込むときもあります。あまりに本格的なので、臨場感があり、泣き出す同期も!でも、実際私たちは絶対に泣き出してはいけないのです。
毎回、設定が違うので、航行中は臨機応変にお客様をどのように落ち着かせるか。どのように指示するかも見られています。教官は子連れの役、騒ぐお客の役などをして私たちの指示や動きを邪魔したり、目の見えない人などのハンディキャップのある人の役をすることで、私たちがどのように対応するかを見ています。
ただ覚えるだけではなく、臨機応変の力が求められるということです。いくら座学で覚えたとしても、どんなケースが起こるかも分からないですし、どんなお客様が乗っているかもわかりません。時には乗客の方にもお手伝いしてもらうことになるので、そこでも指示の出し方が間違っていないかもチェックされます。
私は一度も「うまくいった!」と思うことはありませんでした。あまりの臨機応変の対応力の無さ、語彙の少なさにがっかりしていました。でもそれは、他の同期も同じ。そこを教官にバシバシ指摘されて余計落ち込む…という訓練が毎日続きました。
そして、こちらも一人ひとりテストがあり、見事全員合格。
2週間にわたる辛く厳しい安全訓練もこれで終わりです。安全訓練の教官も私たち全員を合格させるために必死の毎日でしたので、私たち全員が合格したときは泣いて喜んでくれました。(あんなに怖かったのに。)
次回の第8話はまた、サービス訓練に戻り、いよいよ最終仕上げに入ります!ついに、制服授与!制服を着ての訓練が始まります。