前回の「未経験から挑戦する「人事」の仕事」では、人事全体の仕事内容、人事に必要な資質、人事に必要な資格、未経験でも採用される方法について解説いたしました。
今回は、数ある人事の仕事の中でも第一に挙げられる「採用業務」について解説いたします。企業の顔として外部に見られる採用の仕事には、どんな面白さや苦労があるのでしょうか。
採用の仕事
採用業務には、新卒採用、中途採用、パート・アルバイト採用、派遣スタッフ対応などいくつかの種類があります。それぞれ業務プロセスに違いがあり、目的も違いますが、自社に引き入れる人材を見極める仕事であることは共通です。
【新卒採用】
就職イベントや会社説明会で見る採用担当者の仕事に、華やかさを感じる学生は多いようですが、そのイベントを成立させるための準備や、イベント後の業務の方が圧倒的に多いことが、新卒採用の特徴です。
例えば、学生が下記工程を経て、内定をとり、就職したとします。
『就職フェア⇒会社説明会⇒エントリー⇒適性試験⇒一次面接⇒二次面接⇒最終面接⇒内定⇒就職』
これを、採用担当者の実務(例)に当てはめて行くと
採用の仕事 | 仕事内容 |
---|---|
就職フェア | 出展フェア選定 フェア参加告知 告知閲覧チェック 会社紹介資料準備 備品準備 リハーサル 当日運営 参加サンクスメール |
会社説明会 | 会場手配 説明会告知 説明会申込者管理 前日の案内 資料準備 備品準備 リハーサル 当日運営 説明会参加サンクスメール |
エントリー | エントリー管理 エントリーサンクスメール 試験案内 |
適性試験 | 試験選定 前日案内 受験者管理 合否判定 合格・不合格通知 一次面接案内 |
一次面接 | 会場手配 面接官調整 面接前日案内 資料準備 備品準備 合否選定 合格・不合格通知 二次面接案内 |
二次面接 | 会場手配 面接官調整 面接前日案内 資料準備 備品準備 合否選定 合格・不合格通知 最終面接案内 |
最終面接 | 会場手配 面接官調整 面接前日連絡 資料準備 備品準備 交通費精算 |
内定 | 内定者会議(合否選定) 内定通知 内定者フォローサイト管理 内定式準備 内定者研修準備 教育・労務への業務移行準備 入社承諾書の受領確認 |
就職 | 入社式案内 研修期間中の住居手配 入社式準備 |
※採用担当者の業務工程は更に多くなります
※業界・企業により、工程や実務内容に違いがあります
上記だけでもかなりのボリュームですが、実際には、この採用活動が承認されるための、経営戦略に沿った計画作り、就活サイトの選定や掲載する情報の精査、リクルーターとの打ち合わせや教育などもあります。全国展開で採用活動を展開するのであれば、出張などの移動時間や備品の発送も考えなければいけません。
そして、ワンクールが終わる頃には、既に次の年の準備・活動が始まっています。とにかく忙しい仕事であることは間違いありません。
また、新卒採用は、他部門を巻き込む大きな仕事であるため、非常に気を遣います。
大抵の場合、学生に就業イメージを膨らませるためリクルーターを活用しますが、そのリクルーターは、各部署の優秀な人材、あるいは今後を期待する若手です。面接官にはリクルーターだけでなく、部署長、部門長も駆り出します。
協力に承認を得ているとは言っても、他部門に本業以外の時間をとらせる以上、最大限配慮した要請をする必要があり、その調整には苦労がつきものです。
「うちの稼ぎ頭をどこまで使うつもりだ!」「採用活動に協力した分、うちの部の目標設定は下げても良いのか?」そんなセリフを言われたことのある採用担当者は多いものです。
【中途採用】
経営戦略を遂行する工程で、即戦力を確保するために行う中途採用。
中長期計画での採用もありますが、必要に応じて行うことがほとんどです。退職による欠員補充、人事異動によって明らかとなる必要人員補充、新規事業や事業拡大に応じた増員など、その都度の採用活動となります。
新卒採用と違い、所属部署が決まっていることが多い中途採用では、採用方法の選定が重要となってきます。
理系専用や経理専用WEBサイト、ITに特化した紹介会社など、どの方法を取るか、何を利用するかによって、集まる人材も費用も変わります。
もし求める人材が集まらなければ、時間と費用をかけて、採用方法を変えなければなりません。少しでも早い補充・増員を求める部署にとっては痛手です。
しかも、新卒採用は人事部門や全社的な費用とし、中途採用はその部署の負担とする企業が多いため、採用の遅れ・やり直しによる費用増は、部署の不満を噴出させる要因となってしまいます。中途採用業務は、スピード感と費用対効果へ重点を置く必要があるのです。
採用工程は募集規模によりますが、数人であれば『募集⇒書類選考⇒適性試験⇒一次面接⇒二次or最終面接』
等が一般的ですが、中長期戦略で多くの人材を求める場合であれば、新卒採用のようにフェアに参加したり、会社説明会も開催します。
企業によって、中途採用業務のボリュームはかなり違いがあると思った方が良いでしょう。
【パート・アルバイト採用】
イベント等短期需要や、週2~3日、1日3~4時間などの仕事については、パート・アルバイトを採用します。正社員採用に比べると募集に費用をかけられないため、既に付き合いのある代理店に声をかけ、パート・アルバイト専用の募集サイトで採用することが多くなります。
採用までの工程も、正社員採用に比べると簡略化され、支社や支店、事業部で全てを担当することもあります。この場合であれば、採用担当者は、採用申請のチェック程度の仕事となりますが、問題は人数が多い場合です。
事業内容によっては、ほとんどの業務をパート・アルバイトでまかなっており、正社員はパート・アルバイト管理が一番の重労働ということもあります。その場合は、採用担当者にも相当な業務が発生します。
繁忙期や、退職の多くなるタイミング、業績から見る必要人員数などを予測し、募集の準備や面接会場の手配、教育係の時間確保などを事前準備します。予測通りいかないこともあるのが厳しいところです。
また、パート・アルバイトのシフト作成にも、現場の社員とともに動く必要があります。
シフトのちょっとした変更でも、定着率が上がることが多いためです。
【派遣スタッフ対応】
正社員と変わらない勤務時間で仕事を任せたいけれど、長期間の雇用は必要ない場合、アシスタント的な立場の仕事を任せたい場合、産休・育休に入る正社員の仕事を任せたい場合などは、派遣スタッフ契約をすることがあります。この派遣スタッフ管理も、採用担当者が行うことが多いようです。
派遣されてきたスタッフとの接触もありますし、派遣会社側の担当者との連絡もあります。スタッフが問題を感じた場合や、正社員が派遣スタッフに問題を感じた場合などは、採用担当者と派遣会社担当者との打ち合わせから問題を解決します。
採用の難しさ
何と言っても『人』を見極めることが、採用の難しさでしょう。
適性テストが優秀だったから、面接で非の打ち所がなかったから、経歴が魅力的だからと言って、自社で活躍できるとは限りませんし、逆に、あまり期待していなかった人材が大きな成果を上げることもあります。
どんなに経験を積んでも、人を見極めることの難しさを実感するのが採用の仕事です。
ただし、「この人、内定を出しても辞退しそう…」そんな的中率だけは年々上がるという担当者もいます。
※「元人事採用担当者が教える転職を成功させるためのアドバイスシリーズ」もごらんください。
採用のやりがいと切なさ
採用選考の中で、これぞと思う人材に巡り合え、無事に入社までたどり着くと、やりがいと喜びを感じます。
特に新卒採用の入社式などは、「やっとここまで来たのだ。」と、感慨深くなる担当者が多いようです。
ただし、採用の仕事には、明確な成功がありません。
短期的に「今年は目標の●人が採用できた。」としても、その人材が5年後に大きな仕事を成し遂げるか、10年後にマネージャーとして事業部を率いているかはわかりませんし、翌年には退職してしまうかも知れません。
採用した人材が入社間もなく成果を上げれば、大きな喜びを感じますが、大抵は本人と上長の采配が評価され、採用担当者まで評価されることはありません。それなのに、採用した人材が問題を起こせば、「どうして採用したのだ。」と責められるのは採用担当者であることが多いもの。少し切ないですね。
以上、採用の仕事についてご紹介しました。
明確な数字で評価することが難しいですが、採用は経営資源のひとつである『ヒト』を用いた経営戦略のひとつ。とても魅力的な仕事です。
最初から面接官になることはありませんが、準備作業が多いため、未経験者でもアシスタント業務から挑戦できる可能性は十分にあります。人事部門内のジョブトレーニングの入口が、採用であるという企業も多くあります。
未経験からチャレンジするなら、忙しさを楽しむ覚悟で臨みましょう。
次回は人事の仕事の「教育のしごと」「労務のしごと」「評価のしごと」について解説いたします。人事の仕事全体を説明した「人事」の仕事-必要な資質、資格、「採用業務編」「教育業務編」「労務業務編」もご覧下さい。
人事の仕事
採用、教育、労務、評価、制度の立案・運用など、人事の仕事は多岐にわたります。
業界や企業規模によって違いはあるものの、経営資源である『ヒト・モノ・カネ・情報』の4要素のうち、『ヒト』という資源を活かして経営を支えるという立ち位置は、どの業界・企業でも共通です。
未経験から挑戦する「人事」の仕事 | |
採用 | 新卒・中途・アルバイト採用、派遣スタッフ契約や、採用のために準備する媒体検討、イベント出展、会社説明会や面接プロセスなどの全般を担当。 経営戦略に合わせた人員確保や、部署から要求される増員・補充を調整した採用戦略の立案なども行う。 採用業務について |
教育 | 社内外における新人研修やマネージャー研修の立案、実施。教育成果の調査。 資格取得などの管理も行う場合がある。新入社員との接触時間や回数が多い業務のため、配属会議への参加もある。 教育業務について |
労務 | 勤怠管理、給与計算、保険手続き、年末調整など、常に全社員の個人情報を扱い、『人事の要』とも言えるのが労務。 入社・退職時に必要な手続き書類の作成なども、大半が労務の担当。 労務業務について |
評価 | 給与や賞与、昇進・昇格などの根拠となる評価(人事査定)を行い、管理する。 評価システムの導入や、導入後の運用についても舵取りをする。 評価業務について |
制度立案・運用 | 社員が快適に就業し、よりよいパフォーマンスができるように、社内規則やその見直し、運用を行う。ダイバーシティにおいて重要な役割を果たす。 |
※この他にも、突発的な社内トラブルの解決・相談など、人事部門全体で対応する業務も多い。