雇用動向などいくつかの統計をみても、社会福祉、介護職の離職率は他の産業と比べて高くなっています。つまり退職する人が多いということなのですが、一方で介護職員の人手不足は大きな課題になっており、厚労省の調査では、2025年には237~249万人の介護職員が必要と言われています。
ここでは公益財団法人 社会福祉振興・試験センター「平成27年度就労状況調査」をもとに、福祉分野の代表的な資格である「介護福祉士」と「社会福祉士」が、なぜ前の職場を辞めたのか、また再び福祉・介護・医療分野の仕事に復職したきっかけや動機、現在の職場(再就職先)を選択した理由を紹介いたします。ふたたび福祉・介護業界に戻ってきた人を対象にした調査です。
福祉介護業界から離れてしまった人による「福祉・介護・医療分野に再就職しなかった理由」と合わせてご覧下さい。
前の職場を辞めた理由(複数回答)
まず最初は「前の職場を辞めた理由(複数回答)」についてです。なおこの調査は3年に1回程度実施されているもので、今回は介護福祉士が224,000 人対象で有効回答が58,513 人、社会福祉士が26,000 人、9,000 人にて調査をしています。
「社会福祉士」の回答でもっとも多かったのは、「法人・事業所の理念や運営の在り方に不満があった」で33.4%、次いで「収入が少なかった」で24.5%、3番目が「職場の人間関係に問題があった」の24.3%でした。
「介護福祉士」の回答でもっとも多かったのは、やはり「法人・事業所の理念や運営の在り方に不満があった」で33.5%と社会福祉士と同じ結果になっています。2番目は「職場の人間関係に問題があった」の29.4%、3番目が「収入が少なかった」の28.0%と、順位は違いますが上位3件は同じ理由があがっています。これだけ多くの職員が回答をしているということは、施設運営者は特に注意すべき問題では無いでしょうか。
また「社会福祉士」だけの特徴としては、「将来のキャリアアップが見込めなかった」「専門性や能力を十分に発揮できない仕事・職場だった」が比較的多く挙げられています。長期に渡って働くための環境と現在の仕事のやりがいを重視していることがわかります。
前の職場を辞めた理由(複数回答) | ||
社会福祉士 | 介護福祉士 | |
法人・事業所の理念や運営の在り方に不満があった | 33.4% | 33.5% |
職場の人間関係に問題があった | 24.3% | 29.4% |
利用者やその家族との関係に問題があった | 1.1% | 1.8% |
収入が少なかった | 24.5% | 28.0% |
労働時間・休日・勤務体制が合わなかった | 18.3% | 21.4% |
業務に関連する心身の不調(腰痛を含む) | 13.8% | 16.8% |
転居の必要性(家族の転勤や地元に帰る等を含む) | 10.4% | 7.8% |
出産・育児と両立できない | 8.3% | 8.4% |
家族等の介護・看護 | 3.1% | 4.8% |
業務に関連しない心身の不調や体力の衰え | 3.3% | 5.2% |
専門性や能力を十分に発揮できない仕事・職場だった | 21.2% | 14.7% |
より魅力的な職種が見つかった(他の資格取得を含む) | 20.6% | 11.4% |
友人に転職を誘われた | 6.1% | 7.4% |
将来のキャリアアップが見込めなかった | 23.1% | 17.6% |
同業種で起業・開業 | 2.9% | 2.3% |
人員整理、退職勧奨、法人解散等 | 3.9% | 5.0% |
その他 | 18.8% | 16.5% |
無回答 | 1.8% | 3.0% |
再び福祉・介護・医療分野の仕事に復職したきっかけや動機(複数回答)
次の質問は「再び福祉・介護・医療分野の仕事に復職したきっかけや動機(複数回答)」です。
一度、退職して再び福祉分野の仕事に戻って来た人に質問をしています。
「社会福祉士」の回答でもっとも多かったのは、「働きがいのありそうな職場がみつかった」で38.9%%、2番目は「生活費を稼ぐ必要があった」の35.5%、3番目は「労働日・時間・通勤等の希望にあった職場が見つかった」の 32.6%でした。
一方の「介護福祉士」の回答でもっとも多かったのは、「生活費を稼ぐ必要があった」の45.4%、2番目が「この仕事が好きだと思った」の37.0%、3番目が「労働日・時間・通勤等の希望にあった職場が見つかった」の34.6%でした。
「社会福祉士」の場合は1問目の回答の傾向と同じように「働きがい」を重視する人が多いことがわかりました。「介護福祉士」の場合は現実的な問題として半数近くの人が「生活費を稼ぐ必要があった」を挙げているのは興味深いところです。
再び福祉・介護・医療分野の仕事に復職したきっかけや動機(複数回答) | ||
社会福祉士 | 介護福祉士 | |
子育てや介護等が落ち着いた | 7.2% | 9.8% |
心身の健康状態が良くなった | 5.5% | 7.7% |
新しい生活になれた | 3.5% | 3.4% |
この仕事が好きだと思った | 30.6% | 37.0% |
生活費を稼ぐ必要があった | 35.5% | 45.4% |
その前の仕事よりも収入が向上する | 18.4% | 18.1% |
働きがいのありそうな職場がみつかった | 38.9% | 23.9% |
労働日・時間・通勤等の希望にあった職場が見つかった | 32.6% | 34.6% |
友人・知人の誘いがあった | 17.7% | 20.8% |
無回答 | 6.1% | 5.7% |
現在の職場を選択した理由(複数回答)
3番目の質問は「現在の職場を選択した理由(複数回答)」です。現在の会社に決めた理由です。1度退職した人が再就職にあたって、あらためて、もっとも重視した点ということになります。前職の退職理由を踏まえての就職活動ですので、福祉業界に転職を考えている人は参考にすべきポイントではないでしょうか。
「社会福祉士」の回答でもっとも多かったのは、「やりたい職種・仕事内容」で実に58.1%もの人が挙げています。2番目は「能力や資格が活かせる」の46.6%と、こちらも半数近くの人が決定理由にしています。
これは退職理由の「専門性や能力を十分に発揮できない仕事・職場だった」「将来のキャリアアップが見込めなかった」を反省点として踏まえ、再就職先ではやりたい仕事が出来るかどうか、福祉士の資格が生かせる仕事かどうか、を重視した転職したことがわかります。
一方の「介護福祉士」の回答でもっとも多かったのは、「通勤が便利」の41.4%でした。これは「介護福祉士」の場合、短時間勤務(パートタイマー)として働く人も多いため、出産から子育てを経て、なるべく保育園のお迎えに行きやすい環境を選んでいると想像されます。
2番目は「やりたい職種・仕事内容」の39.1%でした。
現在の職場を選択した理由(複数回答) | ||
社会福祉士 | 介護福祉士 | |
やりたい職種・仕事内容 | 58.1% | 39.1% |
能力や資格が活かせる | 46.6% | 31.3% |
教育研修や資格取得支援等が充実している | 4.3% | 4.3% |
法人・事業所の理念や方針に共感した | 13.4% | 8.1% |
賃金の水準が適当 | 20.2% | 12.5% |
働きぶりや能力が賃金や配置に反映される | 2.8% | 3.3% |
労働時間・休日、勤務体制が希望に沿う | 32.6% | 31.5% |
通勤が便利 | 31.6% | 41.4% |
正規職員として働ける(可能性がある) | 38.9% | 31.3% |
福利厚生が充実している | 15.0% | 10.2% |
子育て支援が充実している | 5.0% | 3.3% |
職場の雰囲気が良い | 15.5% | 17.7% |
法人の安定性、将来性 | 24.9% | 15.3% |
その他 | 10.2% | 13.9% |
無回答 | 1.0% | 1.5% |
最後に 編集部から
冒頭でも説明いたしましたが、高齢者の増加にともない、福祉、介護分野の仕事はいっそうニーズが高くなってはいるものの、一方で、仕事の厳しさや給与の少なさなどから、離職する人も多く、慢性的な人手不足状態になっている現実があります。
施設運営者、経営者、さらに管理職は、これらのいわば批判を真摯に受け止め、仕事環境や雇用条件の改善にいっこくも早く取り組む必要がありますし、また行政サイドは、一度は資格を取って仕事に就きながら、現在は福祉業界から離れてしまっている潜在資格保有者に、もう一度業界に戻ってきてもらうための施策を矢継ぎ早に打ち出していくべきではないでしょうか。たとえば資格者の優遇措置や制度改善、有資格者への郵送物発送による告知などです。今回、現場の資格保有者に回答してもらったこの率直な調査結果には多くのヒントが隠されているような気がします。
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「精神保健福祉士の仕事内容や平均年収・給与、向いている人」や
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