現在、約2,000万人といわれる非正規雇用者。最近では、非正規社員と正社員の賃金格差を無くす「同一労働同一賃金」の声もあがっています。一方で正規雇用(正社員)も、高度成長期より続いていた年功型賃金の崩壊や、終身雇用と深く関係する長時間労働問題、ホワイトカラーの生産性の低さなどの制度疲労も目立つようになってきました。
少子高齢化、人口減少による労働力不足の問題、人々のライフスタイルの変化にともない、正社員か非正規雇用の二択では時代のニーズを吸収できなくなってきた現在、従来の硬直した雇用制度とは異なるさまざまな働き方が求められているのではないでしょうか。
今回は今後の日本の経済成長の鍵を握るといわれる雇用形態、正社員でもない非正規雇用でもない「限定正社員」について解説をいたします。
「限定正社員」とは
「限定正社員」とはどのようなものなのでしょうか。
一般的な正社員というのは、労働契約の期間の定めがなく、所定労働時間がフルタイムで、かつ直接雇用であることをいいますが、「限定正社員」とは、従来型の正社員と比べ、配置転換や転勤、仕事内容や勤務時間などの範囲が限定されている正社員のことをいいます。
具体的なメリットとしては、全国転勤ではなく自宅から通えるエリア内転勤限定であったり、終業時間が早かったり、残業の免除されているなど特徴が挙げられます。無期雇用や直接雇用、社会保険や厚生年金、退職金などの福利厚生面は正社員と同様にしているところがほとんどです。
すでに先進的な取り組みをおこなう一部の企業では、エリア正社員などの名称で導入されており、正社員と比べて労働条件が緩和されている分、給与が若干低くなっているケースが多いようです。このデメリットは致し方ないでしょう。
なぜこのような働き方が求められるのか?
「限定正社員」が出て来た背景には現在の正社員の働き方に原因があります。
雇用の安定性や退職金・年金や福利厚生の手厚さ、賃金水準の高さなどから、非正規よりも正規雇用者を希望する人の方が多いのはさまざまな調査結果からわかっていますが、勤務地を選べず、労働時間の長い(残業が不可欠な)従来型の正社員では、特に子育て中の女性にとっては働くことが難しく、結果的に正社員を退職して、パート、アルバイトとして働くことを余儀なくされているという現実があります。正社員として働きたいけど働けないのです。
厚労省がおこなった労働者への意識調査でも、「正規雇用者として働きたいが、勤務地や職種・職務、労働時間が限定された仕事を希望する人」の割合は男女ともに2割以上となっており、特に女性では「限定正社員」を希望する割合が3割を超えています。
「そんな贅沢言わずに、パートでも仕事があるなら十分じゃ無いか」という意見も出そうですが、それは雇用を守られている正社員や男性など強い立場にいる人の論理であり、建設的ではありません。正社員として働きたいけど、勤務地や労働時間に配慮して欲しいという人への対策が急がれているのです。
企業側にもさまざまなメリットが
さまざまな働き方が選べる「限定正社員」制度を導入することは企業側にもさまざまなメリットをもたらします。
例えばこれまでは結婚や出産を機に辞めざるを得なかった貴重な人材を引き留めることができたり、優秀な人材の採用や定着促進につながったり、自社の貴重な技術やサービスの質を円滑に継承できることも考えられます。また勤務地限定の社員を雇うことで、地元密着型の事業を安定的に進めることも出来るようになります。
内閣府「企業の人材活用に関する意識調査」をみても、企業側も終身雇用を前提とした年功型賃金は続けられない、または維持しつつも徐々に調整をしていく必要があると考えており、実際に約15%の企業が2014年~2017年の間に取り組んでいきたいと答えています。
「限定正社員」導入の課題は
一方で、年功型賃金制度の転換における課題や障害として、「適切な賃金設定が難しい」「社員や労働組合の反対が想定される」「労務管理が複雑・煩雑になる」「企業年金や退職金制度の変更が難しい」「業界・社風に合わない」といった声がみられます。
経営者や人事担当者からすると「頭では理解をしているし、実際に制度変革をしていかなければいけないこともわかっているが、いかんせん実現へのハードルが高すぎて、なかなか着手できない・・・」といったことなのでしょう。
たしかに社員ひとりひとりのスキルや職務を正しく把握した上で、不平不満が出ないように、職務やスキルに応じた新しい賃金設定するには、相当な作業と時間が必要となります。でも一部の世界的なグローバル企業ではすでに導入しており、実際に外国人人材も含めた優秀な人材を確保しています。少子高齢化を迎え労働力不足の傾向が徐々に現れてきた日本は、早急に男女性別や年齢、国籍に関係ない透明性の高い賃金制度を築いていかなければ、徐々に沈没、衰退していってしまうのです。
最後に
実は今回紹介したような弾力的(フレキシブルな)な働き方は、地域の中小企業、小規模企業がすでにその役割を担っていることが多いのです。
「地元密着で支店も無いから転勤がない」「社長や経営陣の考え方ひとつで早退や欠勤も柔軟対応」「保育園で何かあっても近くなので抜け出しやすい」「通勤時間が短いので身体の負担が少ない」など、今回クローズアップされた正規雇用の問題点をクリアしているところが多分にあります。
ただ中小企業には資本面にそれほどの体力がありませんから、どうしてもパートアルバイトが多いのが欠点です。今後、柔軟な雇用制度を取り入れる大手企業が増えていき、その後、世の中の中小企業も正社員でもパートアルバイトでもない、その両方の良い点を備えた「限定正社員」(もっとも中小企業の場合は、クリアになっていることも多いので正社員でいいわけですが)が増えていけば、女性の雇用安定で世の中の雰囲気も変わり、消費意欲も向上し、豊かな生活を送る人が増えるようになるような気がします。