保育士が現在の職場に改善を希望すること
核家族化や共働き家庭の増加、地域社会の希薄化などから、社会的養護を必要とする子供や児童虐待相談件数の増加など、子ども達を取り巻く環境は大きく変化をしており、特に幼少期の子どもと関連する保育園・幼稚園、保育士に求められる役割も大きくなっています。また都市部を中心に待機児童数の増加や保育士の人手不足などによって、働きたくても働けない女性が増えていることは、日本経済にとっても大きな損失になっています。
今回は、全国の待機児童数の3分の1をかかえる東京都が実施した「東京都保育士実態調査報告書」(平成26年3月)をもとに、現在保育士として働いている人が「現在の職場に対して改善してほしいと思っている事」の調査結果を紹介いたします。この調査は、平成20年4月から平成25年3月までの、東京都保育士登録者で現在保育士として働いている人(正規職員、有期契約職員フルタイム及びパートタイムを含む)を対象におこないました。
1位は「給与・賞与等の改善」で約6割が回答
現在、保育士として働いている8,214人(正規職員4,702人、有期契約職員フルタイム886人、有期契約職員パートタイム2,536人)を対象に実施。回答は該当することすべてに○をつけてもらう複数回答です。
もっとも多かったのは「給与・賞与等の改善」で59.0%、約6割が「改善してほしいと思う」と回答しています。 保育士の年収は「平成24年就業構造基本調査結果」によると、看護師、薬剤師、介護支援専門員など同様の専門的職、技術的職の中でも、それほど高くはなく、労働時間や仕事のハードさと比べて、給与の低さに不満を感じている保育士が多いことが伺えます。
2位は「職員数の増員」で約4割が回答
次いで、2番目に多かったのが「職員数の増員」で40.4%、約4割の人が答えています。 保育士の業界は既知のように、人手不足、採用難のため、どこの保育園もやりくりに苦労をしています。公営が多い保育園業界は行政との連携が必須で、民間企業のように人が集まらないからといってすぐに給与やボーナスを大幅に引き上げたり、労働条件・雇用条件を改善したりすることができません。
保育士不足の影響は、現在働いている保育士への無理なしわ寄せという形で表れ、そのことは結果的に離職率の増加や事故の多発など悪循環になってしまうのです。行政が中心となって早急に解決すべき問題ではないでしょうか。
保育士が現在の職場に対して改善してほしいと思っている事 | |
回答(複数) | % |
給与・賞与等の改善 | 59.0% |
職員数の増員 | 40.4% |
事務・雑務の軽減 | 34.9% |
未消化(有給等)休暇の改善 | 31.5% |
勤務シフトの改善 | 27.4% |
職員間のコミュニケーション | 20.3% |
研修機会の充実 | 13.7% |
相談体制の充実 | 13.5% |
園(など)の理念や運営方針 | 12.7% |
雇用の安定化(正規職員登用) | 12.6% |
責任範囲の縮小 | 12.1% |
評価制度の見直し | 7.5% |
権限範囲の拡大 | 3.5% |
その他 | 7.6% |
特にない | 8.2% |
無回答 | 2.0% |
3番目は「事務・雑務の軽減」で34.9%
3番目に多かったのは「事務・雑務の軽減」で34.9%でした。10人中3人以上が「事務や雑務を減らして欲しい」と考えていることがわかりました。
これは2番目の「職員数の増員」が原因ではないでしょうか。「保育士」の定義は児童福祉法によって明確に定められており、「専門的知識及び技術をもって、児童の保育及び児童の保護者に対する保育に関する指導をおこなう仕事」とあります。
保育園の人手不足によって、本来、保育士がやらなくてもいいような事務や雑務まで割り振られているため、もっとも大事な「児童の保育」「保護者に対する保育に関する指導」がおろそかになるのではないかという懸念もあります。同時に保育園業界はIT化、デジタル化による業務削減や効率化も遅れていると思われることも影響しているはずです。
4番目5番目は「未消化(有給等)休暇の改善」「勤務シフトの改善」
4番目には「未消化(有給等)休暇の改善」で31.5%、5番目には「勤務シフトの改善」で27.4%、6番目には「職員間のコミュニケーション」で20.3%となっています。
業界全体の問題だった1位から3位に比べると、各保育園の運営の問題とも言える点が上がっています。このあたりは、人材不足で難しい点が多いことは容易に想像できますが、保育園のマネージャー職が率先して取り組むべき問題ともいえます。現に現場の保育士は疲弊していることがこの調査からもわかります。
以降、改善して欲しいと思うことは、「研修機会の充実」「相談体制の充実」「園(など)の理念や運営方針」「雇用の安定化(正規職員登用)」「責任範囲の縮小」「評価制度の見直し」「権限範囲の拡大」と続いてきます。
「保育士」へ転職を考えている人へ
「保育士に転職-仕事内容や平均年収・給与、向いている人」でも解説いたしましたが、「保育士」の9割以上は保育所で働くことになります。具体的には、公設公営保育園が22.9%、公設民営保育園が9.1%、社会福祉法人保育園が38.5%、株式会社保育園が17.1%、NPO法人保育園が6.1%、個人経営が3.2%となっています。(平成27年 東京都保育士実態調査)
転職にあたっては、安定を求めて、「公設公営保育園」に市町村の公務員として入職を考えるのもいいでしょう。ただ自分の住んでいる地域だけでは募集枠、募集人数と採用時期に限りがありますので、民間の社会福祉法人保育園や株式会社保育園(両方合わせて約55%の人が勤務)なども、並行してチェックすべきだと思います。
探し方は、地域のハローワークはもちろん、市町村の福祉課系のホームページ、民間の保育士求人サイトを同時進行でおこなうのがおすすめです。
近年は保育士の人手不足と待機児童解消を目指す自治体(特に首都圏の東京、神奈川、埼玉、千葉)が、家賃補助制度や修学資金の貸付、給与の上乗せなどの優遇策を実施しています。
現在の雇用環境に満足をしていない保育士の方も、好条件を求めて転職を検討してみてもいいでしょう。