平成28年度診療報酬改定にともない始まった「かかりつけ薬剤師」制度は、医療現場における国家資格「薬剤師」がこれまで以上に重要な存在として位置づけられています。ここでは私たちの生活に直結する医療機関と薬局、薬について、厚労省が推進する「患者のための薬局ビジョン」「地域包括ケアシステム」をもとに、医薬分業に対する基本的な考え方、かかりつけ薬剤師・薬局とはどのようなものなのかについて解説をいたします。
医薬分業のこれまでの経緯
そもそも国が目指した「医薬分業」とはどのようなものだったのでしょうか。
医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担することを目的とした「医薬分業」によって、重複投薬の減少や医薬品の減量、後発医薬品の使用促進、待ち時間の縮小など一定の成果を収めているものの、もともと国が思い描いていた「どこの医療機関で受診しても、身近なところにあるかかりつけ薬局に行く」地域社会の核となるような薬局像とはほど遠く、医療施設の敷地内や近接地で営業する「いわゆる門前薬局」で処方の大半が完結してしまっていたのです。これでは以前の医療施設から門前薬局に変わっただけと言われても仕方がない訳です。
これらの状況を受けて、厚労省では「患者のための薬局ビジョン」「地域包括ケアシステム」を策定し、今回の「かかりつけ薬剤師・薬局機能の強化」によって、本来の「医薬分業」である、患者の服薬情報の一元的・継続的把握や24時間対応・在宅対応、医療機関等との連携など「地域包括ケアシステム」の実現を目指しています。「医薬分業率」の過去25年の推移はこちら
かかりつけ薬剤師・薬局とは(3つの機能)
かかりつけ薬剤師・薬局とは具体的にどのようなものなのでしょうか。今回の「地域包括ケアシステム」では、薬に関して、いつでも気軽に相談できる「かかりつけ薬剤師」の存在と「かかりつけ薬剤師」が役割を発揮する「かかりつけ薬局」の確保を重点事項としており、かかりつけ薬剤師・薬局が持つべき3つの機能をあげています。
1つ目の「服薬情報の一元的・継続的把握」では、「お薬手帳」に情報を集約化、患者がかかっている全ての服用薬を一元的・継続的に把握します。
2つ目の「24時間対応・在宅対応」では、開局時間外のアドバイス電話対応や夜間・休日など緊急時の調剤実施、残薬管理等のための在宅対応などです。
3つ目の「医療機関等との連携」では、処方医へ疑義照会や処方提案の実施、患者からの相談で医療機関に受診を勧奨するなどの地域の期間との連携を図ります。
「かかりつけ薬剤師」になるには
では現在の「薬剤師」が「かかりつけ薬剤師」になるには何が必要なのでしょうか。
厚労省では制度の核となる「かかりつけ薬剤師」の要件として、下記を全て満たす人材を挙げています。
以下の経験等を全て満たしていること
A.保険薬剤師として3年以上の薬局勤務経験があること(施設基準の届出時点)。
B.当該保険薬局に週32時間以上勤務していること。
C.当該保険薬局に6ヶ月以上在籍していること(施設基準の届出時点)。
この基準については、さほど難易度は高くなく、正規雇用の薬剤師はもちろん、週32時間以上勤務はフルタイムのパートタイマー薬剤師もクリアすることが可能です。
薬剤師認定制度認証機構認証の研修取得
薬剤師認定制度認証機構が認証している研修認定制度等の研修認定を取得していること。(2017年4月1日から施行)
認証申請者の財団法人日本薬剤師研修センターではこれらのリストを公表しています。(補足:一般社団法人日本医療薬学会も該当)
医療に係る地域活動の取組に参画していること
今回の中でもっともあいまいな部分ですが、厚生労働省保険局からの補足回答によれば、
「地域の行政機関や医療関係団体等が主催する住民への説明会、相談会、研修会等への参加や講演等の実績に加え、学校薬剤師として委嘱を受け、実際に児童・生徒に対する医薬品の適正使用等の講演等の業務を行っている場合が該当する。なお、企業が主催する講演会等は、通常、地域活動の取組には含まれないと考えられる。」とあります。
市町村や医療団体主催の説明会等への参加、学校薬剤師としての経験が該当、営利目的の企業講演会は該当しないとなっています。
※厚生労働省保険局医療課 疑義解釈資料
薬局各社も「かかりつけ薬剤師」配置に向けて急ピッチ
平成28年度診療報酬改定では、「かかりつけ薬剤師」が服薬指導をおこなうと「かかりつけ薬剤師指導料」「かかりつけ薬剤師包括管理料」が加点評価されるようになっており、「かかりつけ薬剤師」以外の薬剤師が行う服薬指導と比べて点数がかなり高くなっています。これらの改定を受けて、ほとんどの薬局(調剤薬局やドラッグストア)では、利益率アップのため、当然のことながら「かかりつけ薬剤師」育成、採用に向けて力を入れています。
厚労省の試算によれば、2025年までにすべての薬局を「かかりつけ薬局」へ移行させ、団塊の世代が要介護状態が多くなる85歳以上に到達する2035年までには、この「地域包括ケアシステム」を実現させたいとしています。
これからの「薬剤師」のあり方
今回は新しい薬剤師・薬局のあり方のごく一部を紹介いたしました。(詳しくは厚労省による「かかりつけ薬剤師・薬局について」をご覧下さい)
これらを読み込んでもわかるように、これからの国家資格「薬剤師」には、高齢化社会を迎えた日本において、とても重要な役割が求められています。これまでの薬剤師はどちらかといえば、医療機関が出した処方箋に沿って調製をしたり、報酬算定、在庫管理などの薬中心の作業が多かったことは否めません。いわば受け身な仕事でしたが、今後は患者とのコミュニケーションをメインにした、地域社会の核となる立場として、医療機関と対等のパートナーとなっていくことが想像されます。各患者の「かかりつけ医」ならぬ「かかりつけ薬剤師」となるのです。
これだけを聞くと、負担が多すぎると尻込みをしてしまう人も出そうですが、けっして負担面だけではありません。
高齢者などの服用者が安心して暮らせるため社会形成の一助となる「やりがいのアップ」、仕事の高度化、複雑化にともなう「賃金、年収の増加」、そして多くの人から頼られる存在となる「社会的地位の向上」などの、良い面も多く出てくることでしょう。特に生涯に渡って誇らしく仕事に取り組むための「やりがい」を感じられる、魅力的な仕事といえます。
「薬剤師」に転職を考えている人へ
「医薬分業に対する厚生労働省の基本的な考え方」を読むと、新しい「薬剤師像」が楽しみだという人も多いのではないでしょうか。大変でもありますが、生涯に渡って働くことのできる魅力的な仕事だと感じます。
「かかりつけ薬剤師」となるには、まず3年以上働いていなければなりません。幸い?なことに、現在、薬局やドラッグストア、病院調剤薬局などの医療機関はどこも人手不足で悩んでおり、転職を考えている人にとっては有利な状況が続いています。どこの企業も優秀な薬剤師に来てもらうために、賃金や福利厚生などの労働条件を手厚くしているところが多いようです。
転職にあたっては、数社の面談で安易に決定せずに、自分が「勤務地」「給与」「労働時間」「休日」「やりがい」などの何を重要に考えているのか、しっかり考えて、妥協のない転職活動をおこなうべきです。
地元(通勤30分圏内)での転職を希望するなら、現住所のハローワークや、地元の求人誌などが良いでしょう。また「給与」「労働時間」「休日」「やりがい」などを重視している場合は、比較がしやすい医療系転職サイト、さらにあなたが20代~30代前半なら医療系の転職エージェントを活用するのも手です。
いずれにしても好条件求人を見逃さないように日頃からチェックをして、いざという時にすぐ動ける心構えを持っておくことが重要です。
「薬剤師に転職-仕事内容や平均年収・給与、向いている人を解説」 と 「薬剤師の平均給与・ボーナス・年収を年齢別に公開」 「医薬分業率」の過去25年の推移 もご覧下さい。前回の記事と合わせてご覧いただくことで、薬剤師に転職する際に必要な基礎知識を理解することができます。