「離職率」がもっとも高い業種(辞める人が多い業種)は何だと思いますか。人は誰しも、辞めたくて働いている訳ではありません。仕事をしていくうちに、長時間労働や休日数の少なさが嫌になったり、残業をしても手当がつかなかったり、職場の雰囲気が悪かったり、やむを得ず辞めていくケースが大半なのです。
ここでは厚労省の「平成27年雇用動向調査」を参考に、「転職入職率」と「離職率」の高い業種、低い業種を並べてみました。転職にあたって、離職率の高い業種に飛び込んで行くには、それなりの動機と行動力が必要です。ぜひ転職活動の参考にしてください。なお「転職入職率」とは、過去1年以内に他の会社に勤めていた人が入職した割合になります。
転職入職率と離職率の高い業種、低い業種
「転職入職率」がもっとも高かったのは、 「宿泊業、飲食サービス業」の17.7%、次いで自動車整備業、機械等修理業、職業紹介・労働者派遣業、廃棄物処理業、ビルメンテナンス業、警備業などの「サービス業(他に分類されないもの」の17.3%、3番目が理容業、美容業、エステティック業、リラクゼーション業、旅行業、結婚相談業、家事サービス業、冠婚葬祭業などの「生活関連サービス業、娯楽業」の16.7%となっています。
一方、「離職率」がもっとも高かったのも、 「宿泊業、飲食サービス業」の28.6%、「生活関連サービス業、娯楽業」21.5%、「サービス業(他に分類されないもの」20.0%と、「転職入職率」と同じになっています。なお「離職率」の概念について厚生労働省では、常用雇用者のうち、調査期間内に退職または解雇されたものを指します。
つまり、この3業種は、もっとも多く人を採用するけれども、1年以内にその多くの人が退職をしていく業種ということです。特に「宿泊業、飲食サービス業」に至っては、28.6%と、約3割の人が辞めていってしまうのです。
転職入職率 % | 離職率 % | |
---|---|---|
C.鉱業、採石業、砂利採取業 | 4.4 | 10.0 |
D.建設業 | 7.0 | 9.5 |
E.製造業 | 6.2 | 10.4 |
F.電気・ガス・熱供給・水道業 | 5.1 | 7.8 |
G.情報通信業 | 6.5 | 10.7 |
H.運輸業、郵便業 | 11.6 | 12.0 |
I.卸売業、小売業 | 9.5 | 15.0 |
J.金融業、保険業 | 5.8 | 8.7 |
K.不動産業、物品賃貸業 | 14.2 | 15.9 |
L.学術研究、専門・技術サービス業 | 8.8 | 11.1 |
M.宿泊業、飲食サービス業 | 17.7 | 28.6 |
N.生活関連サービス業、娯楽業 | 16.7 | 21.5 |
O.教育、学習支援業 | 10.9 | 15.6 |
P.医療、福祉 | 10.8 | 14.7 |
Q.複合サービス事業 | 5.6 | 8.1 |
R.サービス業(他に分類されないもの) | 17.3 | 20.0 |
なぜ辞めていくのか?
人が辞めていく理由は、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」「給料等収入が少なかった」「職場の人間関係が好ましくなかった」「会社の将来が不安だった」「仕事の内容に興味を持てなかった」「能力・個性・資格を生かせなかった」などとなっています。上記の3業種は特にその傾向が強いのではないのでしょうか。
「宿泊業、飲食サービス業」の場合は一般の人が休んでいる時に働くのが常なので、どうしても「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」と考える人が多くなります。また「宿泊業、飲食サービス業」は賃金、年収の面においても全ての産業の中で最下位になっているため「給料等収入が少なかった」の人も相当数いると考えられます。
また職場の正規雇用率(社員がいる割合)が低いことも想像されます。産業構造的に多くのコストをかけることができず、パートタイマーやアルバイトを中心に仕事をまわしているため、なかなか従業員が定着しないのです。結果的に特定少数の人にしわ寄せがいってしまい、長時間労働や離職に繋がるという負のスパイラルに陥ります。
求められる事業構造の変革
製造業や建設業などの第二次産業から、サービス業を中心とした第三次産業へのシフトが明らかになっており、特に「宿泊業、飲食サービス業」「生活関連サービス業、娯楽業」「サービス業(他に分類されないもの」などの業種は今後も就業者数が増えていくと思われますが、働く環境が現在のようにあまり良いものではないと、転職を繰り返す人が増えていき、生活が安定しなくなってしまいます。欧米諸国のように若年層の失業率が高くなったり、ワーキングプア(働く貧困層)の状態が増えていくことは、望ましいものではありません。
これらの業種には事業構造の変革への取り組みが求められています。もちろん産業構造を変えることは一朝一夕にできることでもなく、需要と供給のバランスが取れてこそ成り立つものではありますが、付加価値の高く単価の高い商品やサービスの開発と提供や、インターネットやパソコンを活用した事業フローの効率化や、営業時間、労働時間の見直しによる労働条件改善、従業員のスキルアップとキャリアアップを図る教育システムの導入など、面倒だけど重要なことを、一つ一つ地道に改善していってはどうでしょうか。
特にサラリーマン経営者は4年6年で交代するため、チャレンジをせずに、目先の利益(自分が在任中の期間の利益)を追求しがちです。これはこれで(後世の評価を考えると)人として理解出来るのですが、だからと言って、ひと頃世間を賑わせた牛丼の低価格競争のような安易な(誰でも思いつくような)作戦に目を向けるのではなく、平均年収が高く、労働時間が短く、そして離職率が低い、他の業種がうらやむような事業を目指していくべきだと考えます。