転職するならなるべく労働時間の少ない、残業の少ない会社がいい。働き方の多様化、個人志向の高まりによって、仕事以外の例えば家族や趣味、習い事、地域活動などのボランティアも大事にしたいという人が増えている。
ちなみに労働時間の定義とは、労働者が実際に労働した時間数のことを言い、休憩時間や有給休暇取得分は除かれる。
統計などによく出てくる「所定内労働時間数」とは、事業所の就業規則で定められた正規の始業時刻と終業時刻との間の実労働時間数のことで、「所定外労働時間数」とは、早出、残業、臨時の呼出、休日出勤等の実労働時間数のことをいう。この2つの合計を「総実労働時間数」と呼ぶ。
「転職グッド」ではさまざまな統計をもとにランキングを発表しているが、今回は1ヶ月に実際どれだけ働いているか?どの業界が一番労働時間が少ないのか?を「産業別 総実労働時間数」を参考に比べてみた。
データは厚生労働省が公表した労働統計要覧(平成26年度)で、30人以上事業所の結果を対象にした(30人以下の事業所は省いた)。
また合わせてこちらの「残業の多い業種、少ない業種ランキング」もぜひ転職活動の参考にしてほしい。
全ての業種の平均労働時間は1ヶ月149時間
結果によると、平成26年の全産業の1ヶ月あたりの平均時間は149.0時間だった。ちなみに前年の平成25年は149.3時間、平成24年は150.7時間、平成22年は149.8時間と、ここ5年間ほとんど変わっていない。
労働時間の増減は景気と密接に関わっているのだが、近年の緩やかな景気回復とは裏腹にまだ労働時間には影響が出ていないようだ。
では業種別に見ていこう。
1ヶ月の労働時間が一番少ない業種は「宿泊業、飲食サービス業」
1ヶ月の労働時間が一番少ない業種は「宿泊業、飲食サービス業」の109.3時間だった。二番目に少ない業界よりもなんと20時間近く少なく圧倒的だ。これは、今回の調査が正規、非正規社員両方の労働時間を合わせているため、労働時間の短い非正規社員比率が高い「宿泊業、飲食サービス業」が自然と少なくなることや、ホテルや旅館、飲食店などは長時間営業の事業所やお店が多く、勤務時間がシフト制で明確に分かれていることが影響しているだろう。
次いで少なかったのは「学校教育、その他の教育、学習支援業」の128.3時間。その次が「生活関連サービス業、娯楽業」の134.3時間、「医療、福祉」の142.1時間となっている。
「学校教育、その他の教育、学習支援業」には、幼稚園、小中高、大学などのほか、学習塾、図書館、博物館、植物園なども含まれる。いずれも終業の時間がはっきりしている仕事なので、自然と労働時間が少なくなるのかもしれない。(もちろん教員、講師などは、終業後の方が大変だという声も多い)。
下記グラフをご覧いただくとわかるが、月間労働148.3時間の「不動産業、物品賃貸業」までは平均より少なく、152.4時間の「複合サービス事業(郵便局、協同組合)」以上は平均より多い結果となった。
反対に労働時間の多いのは「建設業」「運輸業」
反対に1ヶ月の労働時間が1番が多いのは「建設業」の174.5時間、2番目が「運輸業」の170.9時間だった。数字だけでみると最もすくない「宿泊業、飲食サービス業」の109.3時間と比べて、70時間近く多くなっている。70時間と言えば月の平均勤務数22日で割ると1日3.18時間!も多い。(ただ統計結果の宿泊業の労働時間が少なすぎるという点も多々ある)
ここ数年の景気回復や震災復興需要などで仕事は増加している一方、求職者数は減少する傾向にあり、業界自体が人手不足になっている事が大きな理由だろう。仕事は増えているが、人手不足で、労働者個人に負荷がかかり、長時間労働や週休2日が取れない、結果的に労働環境が悪くなり、働きたいと思う人も少なくなるという悪循環が続いている。まだまだ「建設業=力仕事」のイメージが強く、人口の半分を占める女性が敬遠しがちなのも、人手不足の原因ではないか。
また2番目が「運輸業」も似たような課題を抱えている。オンラインショッピングなどの普及で荷物は増えているものの、アマゾンが仕掛けた送料無料サービスによって、1個あたりの運賃は下落傾向にある上に、業界内での競争も激しく、結果的に利益率が低下している。会社としてはなるべく利益率をあげるためにさまざまな効率化を考えるわけだが、そもそもトラックは1回に積める荷物の量が決まっており、運ぶスピードも当然、法定速度が決まっているので、1時間あたりに運ぶ荷物を増やすことはできない。つまり構造的に、どうしても効率化をしにくい業界であるために、各ドライバーに負担がかかりやすく、結果的に長時間労働というマンパワーに頼らざるを得なくなっているといえよう。
これらを解決するには、拠点を主要となる幹線道路に多数設け、リレー方式で効率良くつなぐことでの走行距離の短縮、荷物の小サイズ化により1回あたりに運べる個数を増やすなどが考えられるが、いずれにしても中小企業が単独で取り組むには難しい問題で、同業界でのエリアネットワーク強化、小売り業との連携強化で梱包段階にまで踏み込む必要があるように思える。
1ヶ月あたりの労働時間数が少ない業種ランキング
労働時間を少ない順に並べたのが以下の表になる。厚生労働省 労働統計要覧(平成26年度)
業種 | 月労働時間 | |
---|---|---|
1位 | 宿泊業、飲食サービス業 | 109.3 |
2位 | 教育、学習支援業 | 128.3 |
3位 | 生活関連サービス業、娯楽業 | 134.3 |
4位 | その他サービス業(他に分類不可) | 139.3 |
5位 | 卸売業、小売業 | 140.0 |
6位 | 医療、福祉 | 142.1 |
7位 | 金融業、保険業 | 147.0 |
8位 | 不動産業、物品賃貸業 | 148.3 |
9位 | 複合サービス事業 | 152.4 |
10位 | 電気・ガス・熱供給・水道業 | 155.1 |
11位 | 学術研究、専門・技術サービス業 | 159.9 |
12位 | 鉱業、採石業、砂利採取業 | 160.9 |
13位 | 情報通信業 | 163.4 |
14位 | 製造業 | 164.6 |
15位 | 運輸業、郵便業 | 170.9 |
16位 | 建設業 | 174.5 |
平均 | 全産業平均時間 | 149.0 |
転職にあたってのポイント
適切な労働時間で働き、休暇を取得することは、仕事に対する意識やモチベーションが高まると同時に、業務効率の向上にプラスの効果が期待される。一方、長時間労働や休暇が取れない生活が続くと、メンタルヘルスに影響を及ぼす可能性が高くなり、生産性も低下する。
特に近年は、冒頭でも述べたとおり、働き方の多様化、個人志向の高まりによって、仕事以外の例えば家族や趣味、習い事、地域活動などのボランティアも大事にしたいという人が増えている。「よく働き、よく眠り、よく遊べ」ではないが、1日24時間を3つ分け、8時間労働、8時間仕事以外、8時間睡眠を、意識していくと、より良い生活が得られるのではないかと思う。
転職活動にあたっても、業界ごとのおおよその構造(労働時間)を把握した上で、企業として休暇や残業に誠実に取り組んでいる会社をぜひ見つけたい。転職サイトには「残業少ない」「有給取得率●●%」などの指標も載っているので、さまざまな項目から絞り込んでみるのもいいだろう。