共働き世帯の増加にともない、これまで浮上しては消えていた「配偶者控除」の見直しが本格的に検討されることになりそうです。「103万円の壁」などと言われていたこれまでの制度が廃止されてしまうのでしょうか。新しい制度とはどのようなものなのでしょうか。
配偶者控除とは
現在の配偶者控除は、妻の年収が103万円以下であれば、夫の課税所得から38万円(70歳以上の場合は48万円)を引けるようになっており、国内では約1,400万人が適用を受けています。また税負担が急激に増えるのを避けるのに設けられた配偶者特別控除も100万人います。さらに配偶者控除(妻の年収)を受けて、夫(妻)の勤務先でも家族手当を支給しているところも多く、国と企業で専業主婦世帯を優遇していた面がありました。
この配偶者控除は、もともとは家長を中心とする「家制度」の考えのもと、家事育児などで夫を支えた妻を税制で評価したことや、扶養者に対して税の控除をおこなうことで人口を増やす目的があったと言われています。ただ昭和36年度税制改正で創設されて以降、平成の現代になっても大きな変更もなく続けられていることから、幾度となく見直しの声があがっていたのです。
なぜ配偶者控除の見直しが進められるのか
「家族を養うのが家長である夫の役目だ」という考えのもと、世の中の大半の妻が専業主婦として家に入っていた時代がすでに過去のものとなり、少しずつ女性の社会進出が進んで来ました。現在では多くの女性が正規雇用やパートタイマー、アルバイトとして働きに出ています。
その一方で、社会構造はとっくに変化しているにもかかわらず、控除の部分は従来のままのため、もっと働く意欲があっても、意図的に年収を103万円以内に抑えているといった弊害も多く見られるようになりました。いくら能力のある女性であっても目先の控除に気を取られ、働くこと自体を止めてしまうのです。これは社会の大きな損失です。
特に少子高齢化を迎え、労働力の減少が確実となっている日本は、人口の半分を占める女性が今まで以上に労働力として、社会に参画してくれないことには、経済は衰退の一途を辿ってしまいます。女性の活躍を政策の重要課題の掲げる安倍政権にとって、障害となっている配偶者控除の見直しは避けては通れない問題なのです。
廃止に反対する声も多い
現行の配偶者控除廃止についてはもちろん反対の声もあります。特に税負担が増えるであろう専業主婦世帯にとっては大きな問題です。増税になって喜ぶ人はいないでしょう。
少し前のデータになりますが、2014年7月に日本経済新聞が電子版読者に対して、見直しの賛否を聞いたところ、賛成が55.4%、反対が44.6%と、賛成がやや多いものの、拮抗しています。ただ女性に限っていえば、約8割が賛成となっています。どちらかといえば男性が反対をしていることがわかります。
これまで見直しの声が幾度となく上がっては、消えていたのは、世論の反発を恐れていたからです。古くは消費税導入を検討して選挙で大敗した大平首相時代のように、税の問題は時の政権を吹き飛ばすほどのシビアな問題なのです。
本来、税は公平でシンプルにすべきではないか
本来、人間は男女の性別や家庭があるか否かなどは関係なく一人の個人として考えられるべきで、税についてもシンプルにひとり一人の収入に応じて、収入600万円であればいくら、50万円であればいくらと公平に課せられればわかりやすいはずです。
そこに昔の「家制度」と古い価値観を引きずったまま、妻の収入がいくらなら配偶者控除、それを超えたら一定額までは配偶者特別控除、さらに国家公務員や企業の扶養手当など、難しい言葉で勘違いしやすい制度を設けていることが、いっそうややこしくしているように思えて仕方がありません。婚姻や子どもの有無など家庭の状況に関係なく、なぜシンプルにひとり一人の収入に対して課税するだけにしないのでしょうか。
もちろん少子高齢化による労働力不足や、増え続ける非正規雇用、年収格差による子どもの教育の問題はとても重要です。でもそれはそれで別途、子どもがいる世帯に助成金を出したり、年収が低い人には課税率を下げたり、非正規雇用から正規雇用へ強く促す制度を作ったりして、出産や子育て、独身でも暮らしやすい社会を目指していけばいいのです。
政府が本格的な見直しに着手
先日、政府は働く意欲のある女性にとって障害となっていた「配偶者控除」の見直しに向けて、本格的に議論する考えを示しました。世論の流れからいっても、専業主婦世帯の負担が急に増えるようなものにはならないはずです。
先日の日本経済新聞の自民党の宮沢税調会長インタビューによれば、「政府税調は年内に夫婦控除の創設などを盛り込んだ所得税改革案をまとめ、同控除を廃止し、共働き夫婦にも適用する新しい控除を18年1月にも作る案が有力」とのこと。
約8割の女性が熱望していた配偶者控除廃止がいよいよ実現するかもしれません。