雇用の安定は本人にとってはもちろん国にとっても重要な課題の一つです。雇用の不安定な人が増えると、晩婚化や未婚による少子化、住宅や車などの購入控えによる消費減退が進むほか、何より常に不安に覆われている人が多い不健全な状態になってしまいます。
正社員として働きたいけど、やむを得ず派遣労働、契約社員、パートアルバイトなどの非正規労働で働いている人(不本意非正規)はどれ位いるのでしょうか。
総務省が発表した平成27年「労働力調査」によると、正社員として働く機会がなく、非正規雇用で働いている人(不本意非正規)は全体で約315万人。現在約約2,000万人いるといわれる非正規雇用労働者全体の16.9%を占めています。
下記の表は正社員になりたいけれども、やむを得ず非正規雇用で働いている人を年代別に表したものです。
正社員になりたいけれど、やむを得ず非正規雇用で働いている人
年齢(歳) | 人数(万人) | 割合 |
---|---|---|
15~24歳 | 28万人 | 12.8% |
25~34歳 | 71万人 | 26.5% |
35~44歳 | 67万人 | 17.9% |
45~54歳 | 62万人 | 16.9% |
55~64歳 | 64万人 | 16.6% |
65歳以上 | 22万人 | 8.8% |
全体 | 315万人 | 16.9% |
ここでの問題は、若年層25~34歳の不本意非正規雇用が71万人ともっとも多いことです。割合も26.5%と他の年代と比べ、圧倒的に高くなっています。本来、仕事のキャリアを積み、将来の日本を背負って立つべき年代が、不本意な雇用状態に置かれていることは良いことではありません。
24歳以下が28万人であったのに比べ、急激に増えているのは大学新卒者の30%以上が3年以内に退職するなど、雇用のミスマッチによる若者の早期離職が一因だと思われます。
賃金も大きな差がつく正規と非正規
非正規雇用は、正規雇用と比べ、雇用が不安定、賃金が低い、能力開発の機会が少ないといった課題があります。
特に賃金は生活の面で影響が大きく、25歳~29歳男女計の場合で正社員が月24万円に対して、非正規が約19万円と約8割の賃金格差があります。これが35歳~39歳になると、正社員が月31万円に対して、非正規が約20万円と約11万円もの差が出てしまいます。(平成27年賃金構造基本統計調査より)
このグラフは正規雇用と非正規雇用の賃金カーブ(時給ベース)を表したものです。50歳~54歳になるとほぼ2倍の開きがでていることがわかります。
一般的に非正規雇用の期間が長ければ長いほど、正社員への転換は難しくなっていきますので、賃金格差の開きが少ない若年層のうちに、なるべく早く正社員転換を進めていくことが重要になってきます。
正社員転換・待遇改善実現プランの決定
このような情勢を受けて、経済成長を重視する安倍政権は2016年1月、非正規雇用労働者の正社員転換や待遇改善を目指す「正社員転換・待遇改善実現プラン」を発表しました。
具体的には、今後5年間で、不本意非正規雇用労働者の割合を現在の約18%から10%以下に、新規大学卒業者の正社員就職の割合を現在の約92%から95%に、正社員と非正規雇用労働者の賃金格差の縮小を図るというもので、キャリアアップ助成金の活用促進による正社員転換等の推進のほか、派遣労働者については改正労働者派遣法の円滑な施行、有期契約労働者については無期労働契約への転換ルールの周知、育児・介護休業の取得推進等やいわゆるマタハラを防止するための法改正などの取り組みを予定しています。
これらが改善されると、雇用の質が高まり、生産性の向上が期待できるため、これからの日本の経済成長にとって、大きなメリットになるのはもちろん、各個人にとっても今以上に豊かな生活が送れるようになることが想像されます。