今回、体験談に登場していただくのは大学時代のアルバイト先だった学習塾にそのまま就職、ふとしたことがきっかけで転職を決意し、大手半導体装置メーカーに転職したZさん(男性)です。少々ユニークな転職経験をぜひご覧下さい。
大学時代のアルバイト先の塾にそのまま就職
大学時代は就職氷河期と言われる時代で、経済は悪く回復の見込みも見えない時代でした。多くの中小企業のみならず、大手も経営破たんしていた時代です。当然、私の就職活動も難航しました。製造業を希望していましたが、厳しく、その時に声をかけていただいたのはアルバイト先の塾の塾長でした。塾のアルバイトは子供たちが相手なので、辛いこともあるのですが、なんとなく心が通じ合って受け入れてもらえた時にはこんなに楽しい仕事はないと思えます。当時は、塾の生徒たちにも徐々に受け入れてもらっていて、塾長のありがたいお申し出を受諾して、塾講師としての道を歩み始めました。
転職のきっかけは、ある一人の生徒の些細な質問からでした。「先生、勉強って何のためにするの?」と、子供なら誰しも一度は思う疑問です。これに私はこう答えました。「勉強とは、得た知識を自分のため、社会のために役立てるためにするんだよ。」と。その後その生徒は納得したのかしなかったのか、どっちつかずの様子で去っていきました。しかし、私は自分の言葉が妙に引っかかっていました。もちろん、今でも子供の教育として社会に役立っている気持ちはありましたが、「もともと自分は製品開発などをやりたかったんじゃないのか?」と思い始めたのです。これは私が27歳の冬でした。
27歳の冬 – 初めての転職活動
転職自体は初めてでしたので、最初はよくわかりませんでした。とりあえず、大きそうな転職サイトにはすべて登録しました。すると、スカウトメールなるものが届きました。スカウト!?なんだかプロ野球のドラフトにかけられているような妙な気分でした。そういうシステムもあるんだと、時代の進歩に妙な感慨が出てきました。転職は他にコネもないですし、転職は転職サイト一本で行いました。
とりあえず、募集中の多くの会社に応募してみました。結果全てお祈りメールです。非常にたくさんお祈りされてなんだか、大仏にでもなった気分でした。そんな中、大手の化学メーカーからスカウトが届きました。一次面接をクリアして、二次面接までたどり着きました。そこで、微妙に話がかみ合わなかったのです。と言いますのも、一次面接で「海外出張OKです」といいそれを聞いた顧客サービス部門の方が私を買ってくださったのでしょう。当時は若かったですし、未経験でもポテンシャルで採用しようとしていたのだと思います。それに気づかずに二次面接で「開発がしたい」という発言をしてしまいました。一次面接と言っていることが違うではないか、と。今思うとありえない失敗です。言っていることに一貫性も、その会社に入って行う仕事のビジョンもありません。当然、落とされました。なんでだろうと考えたときに、その自分の犯した重大な矛盾に気づき、悔しさでいっぱいになりました。
もう同じミスは犯すまいと、次は半導体の装置メーカーに応募しました。この会社は大学時代の専攻と同じで、その経験が生かせる可能性が高かったのです。何とか書類選考が通った段階で、製造業界のこととその会社の内容を調べられる限りすべて調べました。その中で、募集している職種で自分が働く姿をイメージさせて、自分に何ができるのかをしっかりとイメージしました。当然、知識も経験もほとんどないのでできることはほぼないことに気が付きました。かといって落ちるわけにもいかないのでできるだけ正直に、誠意をもって自分のことを話しました。一から勉強するつもりで職種もこだわらない、と伝えました。考えられる会社の枠組みの中で、自分の存在範囲を認識し、それを正直に答えました。畳めないような大風呂敷を広げず今の自分を正確に把握して、誠意をもって話し、前向きに説明する。話す内容には一貫性を持たせ、どうしても正当化できないことは認めてしまった方が楽になる場合もあります。これで何とか無事に転職することができました。
転職に関して前職の塾講師をやっていたことに関してはそれほど聞かれませんでした。あの当時は就職氷河期だったので大変でしたね、という感じです。
半導体の装置メーカーに転職してみて
面白いことに、塾での経験が若い人たちを指導する際に役立っており、若い人の指導の仕事が回ってくることがよくあります。人生万事塞翁が馬ですね。開発の仕事は楽しいです。開発中は何ができるか、どうすればいいのか全くわからず、前が見えない暗闇の中を歩いているようですが、そこから自分の知識と経験をフル稼働して何とか足場を見つけます。塾講師をやっているときに、生徒に言った“勉強とは知識を生かすこと。”これが実践できている気がします。とりあえず一歩を踏み出してやってみようや、わからなければ調べようなど、それまで子供たちに言い続けていたことを自分ができていないことになるので、あきらめかけたときなどにグサッと心に突き刺さります。
転職希望者へのアドバイス、注意点
入社して立場もそれなりに上がってきて、人事担当の方と話す機会も多くなると、人事担当者の“本音”が聞けます。私の場合を聞いてみると必死さが伝わったとのことでした。
転職する前は、人事担当者の考えで目に留まるのはどれも、会社の理想や理念を体現していることです。しかし、現実は人事担当者も人の子です。もし、適正的に会社に合わない人を採用したら、採用担当者の業務査定に響き、出世に影響が出てしまう場合が出てきます。そう考えると、奇抜な考え方を持つ人物よりもなるべく無難な人材をとろうという心理が働くのも無理はありません。
つまり、形式的な条件を満たしており、しっかりと受け答えができる方は一次や二次面接でもキープされやすい傾向にあります。なので面接前には想定される質問に対する答えを用意していきましょう。それに、なるべく必要以上にとりつくろわず、大言壮語は吐かないことです。風呂敷はあくまで自分で畳める範囲で広げるものです。長く面接をしていると、大体傾向が把握できるようで、こういったメッキはすぐにはがれると言います。
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