「商社ウーマン転職奮闘物語」は、食品専門商社の営業職に転職した20代の女性が取引先や上司、同僚に揉まれながら、一人前の商社ウーマンへと成長していく物語(全17話)です。
前回の第6話は、お客さんに嫌われることを恐れて、へコヘコ営業ウーマンになってしまった様子が描かれました。
第7話の今回はどんどん自信を無くしてスランプに陥ってきます。「叱られてばかりの日々。早く家に帰りたい」です。それではどうぞ!
お客さんは私を必要としていない
第7話が始まります。
ヘコヘコ営業を続けること約1年半。私に対するお客さんの接し方は日に日に厳しくなって行きました。
この頃ちょうど原料事情により、仕入業者からたくさんの値上げ案内が入って来るようになって、私は価格改定のお願いで訪問する機会が多くなりました。毎日のようにお客さんのところに行っては値上げのお願い、商談内容もほぼ価格改定のお願いばかりでした。
そんなある日。今の私がお客さんからあまり必要とされていないことを、嫌という程思い知らされる出来事が起きたのです。
いつものようにお客さんのところへ値上げのお願いをするべく訪問した時のこと。お客さんが私に向かってこう言ったのです。
「これってさー御社が利益を減らせば良いことだよね?無理って言うなら◯◯さん(仕入業者の名前)と直接取り引きするから良いよ!」
―――私はお客さんから全く必要とされていない―――
頭の悪い私でも分かりました。
あんなにお客さんに尽くして来たのに!一生懸命お客さんの言うことを聞いて来たのに!何でお客さんは私を必要としてくれていないの?今まで私がしてきたことは何の意味があったの?
私は完全に自暴自棄になり塞ぎ込んでしまいました。
結局のところ私がして来たことは全て“自分なりにやってきた”だけだったのです。お客さんから見た私は、仕入業者やお客さんの言うことをただただハイハイ聞いて、右から左に横流しするだけの仕事しかしていなかったのです。自分の意見も持っていなければ、無理難題言ったって何でもやってくれる。言ってしまえば人形と同じだったということです。
情報力も無ければ交渉力も持ち合わせていない。そんな商社営業なんて、お客さんからしてみたら無駄なマージンを取られるだけで、何らメリットが無い。その事にずっと気付けず、“自分なりにやっている”を貫いて仕事をして来た結果、私はついにお客さんから突き放されてしまったのでした・・・。
落ち込みながら会社に戻り、私は商談内容を上司に報告しました。すると、上司は厳しい口調で私を叱りました。
「それってお前お客さんから必要とされていないってことだぞ?!うちの会社が要らないって言われているのと同じだからな!日頃の営業スタイルに原因があるから、お客さんから認めて貰えないんだ!」
上司の言葉は落ち込んでいた私の心に強く突き刺さりました。けど、上司が言った内容は凄く正しいことだと思いましたし、言われても仕方ないことを今まで自分はやって来たのだと反省しました。叱られたのは当然のことでした。
一体自分はどうしたらお客さんから認めて貰えるのか?どういう風に仕事をしていけば、お客さんから必要として貰えるのか?このことをキッカケに、私は毎日のように自問自答するようになりました。その結果、
「もっと勉強して情報力を身に付けないと!」
こう考えたのでした。私はこの答えを次の目標とすることに決めました。1年経ったばかりの頃に掲げた営業スタイルを、ここに来て変更することにしたのです。
しかし、この時の私は「まだ自分は若いから、交渉力を高めるのは難しいところがある」と勝手に思い込んで、こっちの方は後回しにしてしまいました。「20代のうちはひたすら勉強して、情報力を高める方に専念しよう!」私は自分の出した答えが正しいと信じて突き進んで行きました。
血走った目をしながら、私は原料の勉強に励みました。そんな私の姿を上司は何も言わず静かに見守っていました。「きっと自分から進んで勉強するのは良いことだと思ってくれているんだ!」私はそんな風に思っていました。
営業会議でみんなから集中砲火
勉強を続けること数ヶ月。月1で行われる会議の日がやって来ました。私は通常通り1ヶ月の結果報告をしたのですが、この日上司の雰囲気がいつもと明らかに違っていました。私が報告をし終えると、会議に参加していた上司が1人ずつ私に質問や意見を投げかけて来たのです。
役員「最近社内にいることが増えているように思います。何故営業に出る頻度を減らしたのですか?」
部長「会社は勉強する場所ではありません。勉強は家でやりなさい。勉強する場所を与えるために貴方を採用したのではありません。」
マネージャー「お客さんとの関係に何か変化はありましたか?あまりお客さんと上手く関係が築けていないように見えるのですが?」
課長「君は完全にお客さんになめられていると思います。営業担当者としてもっとそのことを自覚して下さい。」
係長「何故なめられているのか、ちゃんと自分で良く考えなさい!」
全ての意見が正論すぎて、私はだんまりしてしまいました。シーンとした会議室。先輩達は私が何て返してくるのか。私が話し出すまでずっと黙って待っていました。
しばらくして私は先輩達に今まで“自分なりに考えていた”ことを伝え、正直に今後どうしたら良いのか分からないことを話しました。これに対し先輩達は、どうしたら良いのかすぐに答えを求めるのではなく、もっと自分で考えてみるよう私に怒り口調で言いました。
上司にガツッと怒られたのは、この時が初めてでした。とても怖かったです・・・。でも、先輩達が言ったことは、凄く正しかったと思います。私はただひたすら蚊の鳴くような声で「はい」と返事することしか出来ませんでした。
会社に行きたくない・・・
どうしたら良いのかずっと考えましたが、結局何も良い解決方法が見つからず・・・。もっと考えないと!もっと頑張らないと!そう思っているうちに、私は段々と精神的に追い込まれて行ったのです。
―――早く家に帰りたい・・・会社に行きたくない―――
そればっかり考えるようになって、腑抜け状態で仕事をする日々が続きました。終業時間が来たらパッと家に帰る!営業に行くのが怖い・・・。私には営業なんて向いていない・・・。どうせゆとり世代だし・・・。若手営業が1度は抱えると言われているマイナス思考病に、私は掛かってしまったのでした。
仕事もやる気が出ない。ましてや会社の飲み会なんて極力参加したくない。一刻も早く家に帰ろう。そんなことばかり考えるようになったのです。
もはや完全に使えない営業ウーマンとしか言いようがありませんでした・・・。
次回第8話でとんでもない事件を起こしてしまいます。「致命的なミスを犯した私。商社の営業が絶対にやってはいけないこと」に続きます。