いっこうに改善されない長時間労働問題
日本の企業の労働時間は、「労働基準法」によって1週間40時間、1日8時間と決まっていますが、時間外労働・休日労働については同法36条3項に基づく労使協定(いわゆる36協定)の特別条項を締結し、労基署に届け出ることで認めています。つまり実体はおのおのの企業の裁量に委ねられている部分が多く、このことが長時間労働がいっこうに改善されない原因だとも言われています。
近年の日本経済は、低水準の失業率、高水準の有効求人倍率など好景気の傾向が見られるものの、足もとの経済成長率は、中国の景気低迷などもあって、ほぼゼロに近い低成長が続いています。また日本は少子高齢化による労働力不足という大きな課題を抱えており、その前途は決してバラ色ではありません。
政府は、さらなる経済規模の縮小や生活水準の低下を改善し、好循環を形成することを目的とした、今年「ニッポン一億総活躍プラン」を打ち出しました。中でも人口の半分を占める女性の社会進出を阻む「長時間労働の是正」は早急に取り組むべき課題としてあげられています。
長時間労働は、労働の負荷時間を長くするだけではなく、睡眠不足による業務効率の低下、うつ病など労働者の健康への影響、家庭生活・余働(ワーク・ライフ・バランス)の欠如を招きます。最悪のケースは過労死です。つまり会社を支える労働者が健康を害してしまっては、結果的に企業にとって大きな損失、痛手となってしまうのです。
「勤務間インターバル制度」とは?
長時間労働抑制・過重労働対策の具体的な施策として、終業時間から翌日の始業時間まで一定の時間を空けることを義務づける「勤務間インターバル」が上がっています。インターバルとは休息のこと。この制度の一番の目的は労働者の健康を確保することです。
日本では、フレックスタイム制など個人裁量による働き方がある程度は普及しているものの、一方で従来からの全員一緒の始業時間や全員参加の朝礼を重視している企業もあり、深夜まで残業をしても朝の始業時間にはいなければいけない風潮も残っています。これら36協定のためにいっこうに改善されない慢性的な残業、長時間労働を、法によって強制的に是正してしまおうというものです。
すでに導入済みのEU(欧州連合)ではこの間隔を11時間以上と定めており、日本でも実施されると、仮に残業で夜23時に帰社した人は翌日は朝10時まで出社しなくてもよくなります。工場などでシフト制を敷いている場合も24時まで夜勤をおこなった場合は、翌日は少なくとも午前11時までは始業時刻を空けなければいけません。
この制度が導入されれば、深夜まで残業して、3時間寝て、朝8時に出社。翌日も23時まで残業といった過労死まっしぐらのハードワークを抑制できるはずなのです。
経営側からは制度導入への懸念も
一方で企業側からは制度導入に対して懸念の声もあがっています。
「勤務間インターバル制度」導入の議論をおこなう、公益、労働者、使用者の各代表で構成される労働政策審議会 (労働条件分科会)において、
使用者側(雇用企業側)からは、
「日本企業の多くはチームワークで業務を進めており、ある程度は時間外労働に協力をしてもらっている。これらの規制は現場に馴染まず、事業の停滞や雇用機会の喪失を招きかねない」
「多くの企業では一定期間の中で労働時間を調整しており、勤務間インターバルのような1日単位での一律規制は現在の職場の実態に合っていない」といった、制度を後ろ向きに捉える意見もみられました。
これまで企業は36協定の特別条項のもと、自由に従業員の時間外労働をコントロールできたものが、この制度によって難しくなってしまうので、当然といえば当然です。
「勤務間インターバル」導入企業に助成金も
とはいっても、使用者側の意見をよそに、制度導入がすでに進みつつあります。
厚生労働省は2016年8月、安倍政権が掲げる「働き方改革」実現のための第一歩として、2017年度予算の概算要求にて「勤務間インターバル」制度を導入した中小企業に、助成金を支給する方針を明らかにしました(産経新聞ほか)。
中小企業向けの「職場意識改善助成金」を追加し、50万円~100万円を上限に対象経費の4分の3を補助する方針が挙げられています。「長時間労働の是正に向けた勤務間インターバルを導入する企業への支援」として特別計上した予算は34百万円と大きくはありませんが、助成金によって制度の普及を促進させたいねらいです。金額や条件などの詳細については今後詰めていくとしています。